
不妊治療
不妊治療
不妊治療とは、妊娠を望むカップルが妊娠に至らない原因を明らかにし、それに応じた医学的な対処や支援を行う医療行為です。一般的には、避妊をせずに1年間以上妊娠しない状態を「不妊症」と定義します。不妊というと女性側の問題と捉えられがちですが、実際には男性側に原因があるケースも多く、両者が協力して向き合うことが大切です。
近年は晩婚化や生活スタイルの多様化、働き方の変化などを背景に、不妊治療に関心を持つ方が増えています。妊娠の成立には年齢の影響も大きく関わるため、早めの相談や検査が重要とされています。
不妊治療はまず、カップルそれぞれの身体的な状態を把握するための検査からスタートします。その後、排卵のタイミングを見極めて自然妊娠を目指すタイミング療法、処理した精子を子宮内に注入する人工授精(AIH)、卵子と精子を体外で受精させてから子宮に戻す体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)など、段階を踏みながら進めていくのが一般的です。妊娠というゴールに向かって、身体的な治療と並行して、精神的なサポートやパートナーとの協力も非常に大切になります。
不妊の原因はさまざまですが、大きく分けて以下のような要因があります。
女性側の要因
排卵障害(多嚢胞性卵巣症候群、無排卵など)、卵管障害(閉塞・癒着)、子宮の異常(子宮筋腫、内膜症、奇形)、加齢による卵子の質の低下など。
男性側の要因
精子の数が少ない、運動率が低い、奇形精子が多い、精管の閉塞など。
両者の要因
お互いに軽度の問題を抱えている場合、複合的に妊娠しにくくなることがあります。
原因不明
すべての検査で問題が見つからない場合もあります。
不妊の原因は1つに限らず、いくつかの要素が重なっているケースも少なくありません。
不妊症そのものに特有の「症状」は少ないですが、背景にある疾患によっては身体にサインが現れることがあります。
たとえば、排卵障害がある場合には月経不順や無月経がみられることがありますし、子宮内膜症では生理痛がひどくなる傾向があります。卵管閉塞があっても自覚症状がないこともありますが、骨盤内の癒着によって下腹部痛を感じる方もいらっしゃいます。
男性側の不妊は、ほとんどが無症状であるため、検査を受けて初めてわかることが多いです。日常生活の中で自覚できる症状が少ないため、妊娠に至らない期間が続くようであれば、男女ともに検査を受けることが大切です。
上記のような症状や経過がある方は、一度婦人科での相談をおすすめします。
不妊の原因を明らかにするためには、まずはカップルそれぞれの健康状態や生活背景を丁寧に問診し、そのうえで基本的な検査から始まります。
基礎体温の確認
毎朝の体温を記録し、排卵が規則的に起こっているかを判断します。高温期と低温期が明確に分かれていない場合、排卵障害が疑われます。
ホルモン検査
月経周期に応じて血液を採取し、FSH(卵胞刺激ホルモン)、LH(黄体形成ホルモン)、プロラクチン、エストラジオール、黄体ホルモン(プロゲステロン)などの値を測定。排卵の状態やホルモンバランスを確認します。
超音波検査(経腟エコー)
子宮や卵巣の形状、子宮内膜の厚さ、卵胞の成長などを確認します。子宮筋腫、子宮内膜症、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの異常も評価可能です。
子宮卵管造影検査(HSG)
造影剤を子宮に注入し、卵管の通過性や子宮腔の形状を確認。卵管の詰まりや癒着を診断するうえで非常に重要な検査です。
抗精子抗体検査
精子が入ってきた時に、異物と反応し免疫機能が働き、精子を動かなくさせてしまう抗体を持っている人がいます。血液検査で調べることができます。
卵巣予備能検査
AMHを調べることで、卵巣内に残っている卵子数を確認することができます。数が少ない場合は、早期の治療開始、ステップアップが望ましいとされます。
精液検査(男性)
男性パートナーの精子の濃度、運動率、形態などを顕微鏡で詳しく調べ、男性側の不妊要因がないかを確認します。
これらの検査結果を総合的に判断し、必要に応じて腹腔鏡検査(骨盤内の癒着・子宮内膜症の確認)や子宮鏡検査(子宮内ポリープや奇形の有無の確認)といった精密検査を追加することもあります。不妊治療では検査の段階で得られる情報が非常に重要であり、その後の治療選択や妊娠への近道となります。
タイミング療法
基礎体温や超音波検査、ホルモン値などをもとに排卵日を予測し、その時期に合わせて性行為のタイミングをとる方法です。自然妊娠の可能性を高めるための基本的な治療であり、比較的負担の少ない選択肢です。
排卵誘発剤の使用
排卵が不安定、または無排卵の女性に対して用いられます。内服薬(例:クロミフェン)や注射薬(例:HMG注射)を使用して卵巣を刺激し、排卵を促します。副作用や多胎妊娠のリスクにも注意が必要です。
人工授精(AIH)
排卵日にあわせて、洗浄・濃縮処理された精子を細いチューブで子宮内に注入する方法です。タイミング法で妊娠に至らなかったカップルや、軽度の男性不妊、性交困難などが対象になります。
体外受精(IVF)・
顕微授精(ICSI)
卵巣から採卵し、体外で精子と受精させた後、受精卵を子宮内に戻す高度生殖医療です。顕微授精は、精子の数が少ない、運動性が悪いなどの場合に、顕微鏡下で1つの精子を卵子に注入します。
不妊治療は「妊娠できる可能性を高める医療」です。決して「すぐに結果が出る」治療ではないため、焦らず、ご自身のペースで取り組んでいくことが大切です。
当院では、丁寧な問診と検査をもとに、それぞれのカップルに最も合った治療法をご提案しております。不妊治療は年齢の影響を受けやすいため、「少し気になる」「一歩踏み出そうか迷っている」と感じた時点で、できるだけ早めのご相談をおすすめします。
妊娠という目標に向かって歩むお二人を、私たちが医療面・心理面の両方からサポートいたします。
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